9月中旬から始まった収穫作業は、11月の中旬に無事終了することができました。収穫最盛期の10月には猫の手も借りたいほどの忙しさでした。今年は昨年悩まされた雹被害も、台風の被害もなく天候にも恵まれたため久々の豊作の年になりました。


 収穫は一年の農作業の総決算というだけでなく、大きなご褒美でもあるのです。しかし、いつまでも仕事をやり遂げた喜びに浸っていることはできません。りんご栽培とは四季それぞれの仕事をこなしてはじめて成立するものです。春には春の仕事があるように冬には冬の仕事があります。


 弘前の冬はりんごの収穫が終わると同時に訪れます。りんご園が雪に覆われるのは、例年12月の中旬から下旬頃です。この雪の前に必ずやっておかなくてはならない仕事が、“りんごの木を守る”という作業です。 
 収穫が終わり、気温がぐんぐん下がってくると、りんごの木は次第に落葉していきます。みかんなどの常緑樹と違い、りんごは落葉することで活動を停止し、冬の眠りに入るのです。りんごの木にとって冬眠は大切な時間です。冬の間、じっくりと休息をとりながら、翌春から始まる活動のエネルギーを温存しているのです。そして、この休息を誰にも妨げられないようにするのが私たちの仕事です。


 すべてが雪に覆われる青森の冬は、人間はもちろん、野に暮らす生き物たちにとっても厳しい季節です。厳寒期になるとどうしても餌が不足するため、ウサギやネズミはりんごの木をかじって飢えをしのぎます。大きく成長した木は少しぐらいかじられようがビクともしません。しかし、若木の場合はそうは言っていられません。ネズミやウサギの害は若木の生死に関わる問題です。とくに、ネズミやウサギたちは、柔らかくて美味しい若木ばかりを狙うため、若い木の多いりんご園は深刻です。そこで、若木を守るために、幹を堅いネットで覆ったり、忌避剤を散布するなどして被害を抑える工夫を行っています。

 広大なりんご園に植えた若木の一本一本をネットで覆うわけですから、とても大変な作業です。しかし、こうした地道な作業があってはじめて、りんごの木は将来、美味しい実をつけてくれるのです。



 また、収穫作業が終わり静けさを取り戻したりんご園とは逆に、急に慌ただしくなるのがゴールド農園の出荷工場です。冷蔵庫と出荷施設が並ぶこの工場では、選果・出荷作業が毎日忙しく行われています。

 9月中旬から11月中旬の収穫期間、ひとつひとつ丁寧にもがれたりんごは、その日のうちに生産者の手によってゴールド農園のへと運ばれ、巨大な冷蔵庫に一次保管されます。

これは、“収穫したりんごは即日のうちに冷蔵庫へ”という、りんごの鮮度にこだわり続けるゴールド農園の原則のひとつです。


 りんごは人のようにしゃべったりはしませんが、私たちと同じように呼吸している“生き物”です。枝になっているときは、木がりんごに養分を送っていますが、もがれたりんごの実は呼吸し、活動するために、蓄えた養分を少しづつ消費します。この消費が進むと、味が劣化し、やがては腐ってしまいます。0度に保たれた冷蔵庫はりんごのこうした活動を抑える役目を果たします。しかし、一般の冷蔵庫ではりんごの活動をあくまで緩慢にさせるものであって、停止させるものではありません。そこで、りんごを冬眠状態にさせてくれる施設が「CA貯蔵庫」と呼ばれる特殊な冷蔵庫です。


 普段、私たちの周囲を取り巻く空気の酸素濃度は約18%です。この酸素濃度が人や動物、植物にとって最適な環境です。そのため、いくら0度に保たれた冷蔵庫であっても酸素濃度が普通の状態と同じであれば、りんごも普段通り呼吸し、養分を少しづつ消耗していきます。その点、CA貯蔵庫の内部は、温度こそ一般の冷蔵庫と同じですが、酸素濃度が約2%と非常に低く設定されています。この2%という数字は、りんごが活動を停止し、冬眠状態となる最も適した酸素濃度です。つまり、CA貯蔵庫に保管することで採れたての状態を長く保つことができるというわけです。


 収穫後、すぐに出荷するのであれば、普通の冷蔵庫でも十分です。現にゴールド農園でも、収穫後1〜2カ月の出荷であれば、一般の冷蔵庫で保管をしています。しかし、10月に収穫したりんごを翌年の夏まで保管し、常に新鮮なりんごを消費者の皆様にお届けするためには、CA貯蔵庫は不可欠な施設なのです。


  さて、選果・出荷作業についてですが、冷蔵庫から出してきたりんごはまず「フルーツファイブ」というりんご専用の選果機にかけられます。収穫時にも生産者が一個一個手にとり、傷の有無や大きさなどをチェックしますが、工場内の選果作業では、品質の均一化をはかるため、機械を使ってさらに詳しくチェックしていきます。このりんご専用の選果機械は、表皮の色付き状態、玉の大きさはもちろん、蜜の入り具合や糖度まで計測することができます。


 かつては、糖度を計測する際にはサンプルのりんごの果汁をしぼって調べていました。しかし、これらの計測法で得られるデータは結局、サンプルの評価に過ぎず、ある程度のバラつきを防ぐことはできませんでした。こうした問題を一挙に解決したのが高い選果精度を誇るフルーツファイブです。ゴールド農園では全国に先がけてこの機械を導入し、加工品用、贈答品用など、目的に応じた確実な選果を行っているのです。

 選果が終わると、次はいよいよ箱詰め作業です。選果済みのりんごは、フォークリフトによって、同じ工場内にある箱詰めスペースへと運ばれます。ここでは、選果機の見落としはないか、人の目によってさらに一個一個のりんごをチェックしながら次々と箱詰めされ、市場へと送り出されていきます。

 ちなみに、工場内でこうした選果や出荷の作業を行う方々のほとんどは、りんご農家のお父さんやお母さんたちです。つまり、お父さん、お母さん方にとって選果・出荷作業とは、手間暇かけて育て上げた我が子を社会に送り出す最後の仕事といったところでしょうか。ゴールド農園のりんごたちは最後の最後まで、生産者の愛情に育まれた末に、皆様のお手元へと届けられているのです。


 12月に入ってから雪も積もり始め、ゴールド農園のある弘前は本格的な冬を迎えました。
例年より雪が降るのが遅かったせいか、“木を守る”作業も十分に行うことができ、よい年越しを迎えることができました。これで忙しかったりんご園での仕事も2月下旬から始まる剪定作業まで束の間のお休みに入ります。


 今、窓の外に見えるのは、白銀の大地に根を張るりんごたちの姿です。


青々と葉を繁らせる夏や、真っ赤な実がたわわにみのる秋も素敵ですが、雪に抱かれながら春を夢見るりんご園の風景も、私たちに静かな感動を与えてくれます。







 
   






日本一美味しいりんごを作ろう

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