一年のうちで寒さが最も厳しい1月が終わり、2月の下旬を迎えると、雪のりんご園の表情にも変化が訪れます。

 ゴールド農園のある青森県・弘前市は北緯40度を越える高緯度地域です。
そのため、冬の日照時間は短く、冬至の頃は午後4時には早々と暗くなってしまいます。
しかし、2月を迎えると、日一日と日照時間は伸び、お日様の光も厳寒期の弱々しいものから、キンキンと眩く強い光へと変わっていくのです。

 すると、それまでは綿のように軽くフカフカだった雪も、太陽に照らされるうちに少しづつ溶け始めます。
ところが、いくら日照時間が長くなっても、そこは北国の長い冬。

夜になれば、再び気温はマイナスまで一気に下がってしまいます。

昼間は雪が溶け、夜、溶けた水分が凍り付く。
こうした気温の変化が何日も繰り返されると、次第に雪の表面が堅くしまっていきます。
この現象を北国の人々は「堅雪(かたゆき)」と呼び、春を迎える自然の姿として、古くから親しんできました。

 私たちりんご農家にとって、「堅雪」は再びめぐってくる秋の収穫に向けて、また新たに作業を開始するひとつの目安です。深雪の中に埋まってしまう1月とは違って、堅雪は自由自在にリンゴ園を歩くことを可能にするからです。

 堅雪のりんご園でメインとなる作業が枝の剪定です。
昨年の秋に収穫され、葉っぱを落とし、厳寒期を乗り切ったりんごの樹の枝々には、堅雪の時期を迎える頃になると無数の新芽が結ばれています。
しかし、この状態のまま、本格的な春を迎え、すべての芽が芽吹いてしまうと、樹の体力が消耗してしまいます。

 また、りんごの樹が思い思いに伸ばした枝をそのままにしていると、実際に花が咲き、実を結んだところで、密に込み入った枝が太陽光をさえぎるため、最終的に未発達のりんごとなってしまいます。

 そこで必要となるのが枝の剪定作業です。ゴールド農園では、ちょうど今が剪定作業で大忙しの季節です。
一面の雪に覆われたリンゴ園のあちこちで忙しく仕事をする人を見かけます。

 高枝伐りハサミや、手鋸、剪定バサミなどを持って、一本一本の樹を周り、余計な枝を落とす剪定作業。
端から見ていると、何気なく次々と枝を落としているだけに思えますが、りんごを栽培するにあたって、これほど難しく、また重要な作業はありません。美味しいりんごを作るために10の要素があるとしたら、この剪定作業は全体の約8割を占めるといっても過言ではないのです。

 良い枝を作れば、大きくて良いりんごが実り、剪定がうまくいってなければ、途端にりんごの実が小さくなり、味も落ちてしまいます。
剪定という作業そのものは、曖昧で微妙な部分もありますが、収穫時には、その良し悪しが大きく反映されてしまいます。

 良い剪定を行うために不可欠なのが、長い経験に裏打ちされた深い洞察力です。
私たちがりんごの樹を見たとき、目に映るのは、樹の幹、枝、夏であれば葉っぱなどです。
しかし、樹は地上から上がすべてではなく、必ず“根”という存在を持っています。

 樹を栽培するにあたって、この“根”をどう見るかがとても重要です。
実は、枝と根は鏡のような存在です。
東西南北、広く根を張っている樹は、同じように東西南北、きれいに枝を伸ばしています。根は、枝と同じだけ広がることで、枝が必要とする養分を過不足なく送ることができるのです。
その逆、枝を切りすぎてしまうと根と枝のバランスが崩れてしまい、樹は結果的に消耗してしまいます。
つまり「樹野を見て、根を見ず」という剪定作業が最もよくないのです。

 とくに剪定の初心者が陥りやすい失敗は枝の落としすぎです。
枝をたくさん落とすと樹の姿は確かにすっきりし、枝の一本一本にたっぷりの養分を届くような気がします。
しかし、それでは結果的にバランスを崩してしまうため、良い実ができないのはもちろん、病気にかかってしまう危険もあります。
私たち人間の身体が、内蔵から足先まであらゆる部分のバランスが取れていて初めて健康だと言えるように、樹の健康も全体のバランスを保持することが不可欠なのです。

 一方、枝を残しすぎるもの問題です。密に込み入った枝は実を日陰にし、成長を妨げます。また、枝が多いと実もそれだけたくさん実るわけですから摘果作業が増えてしまいます。

 こうしてみると「多からず、少なからず」というのが剪定の鉄則ですが、だからと言って剪定に教科書があるわけではありません。
 りんごの樹の性格が一本一本異なっていることはもちろん、土や陽当たりの違いなどもあり、剪定方法は千差万別です。弘前では、若い後継者向けに剪定作業の講習会などが行われていますが、こういったことにより、教える方も学ぶ方も容易ではないのが現状なのです。
 そこで必要となってくるのが培ってきた経験なのです。土地の特徴を熟知し、樹を観察し、樹が今、何を欲しているかを理解した上での剪定が望まれます。
 もちろん、私たちも簡単に剪定作業をこなせるようになったのではありません。ゴールド農園は、りんご農家の若い後継者が集まって生まれました。それだけに経験不足からの失敗は幾度となくありました。自分ではこれでいいと思って剪定するわけですが、秋になれば思うような収穫を得ることができず、何年も試行錯誤の連続でした。
 農業の難しさは、結果を得るのが「一年に一度」という大原則があるからです。徹夜で勉強しても収穫は年一回。人より多くの経験を積むことはできません。だからこそ、収穫までの過程で何を学ぶかが大切ですが、天候の不良もあって、一筋縄ではいきません。それでも、毎年テーマを掲げて、昨年の問題点を少しづつクリアしていくことで、経験と技術が身体に染み込んでいきます。
 今、私たちはりんごの樹一本一本の気持ちを手に取るように理解できますが、様々な失敗を重ねたからこそ、この結果があるのです。

 では、実際の剪定作業をご紹介しましょう。作業は、りんごの樹の一本一本を順番に周っていきますが、まず必要なことは樹の全体を眺めることです。どういう枝の伸び具合か、また枝を刈り込み、最終的にどのような形にするのかを頭に描いてから作業に取りかかります。

 そして、枝を切った後に必ず行うのが、薬の散布です。
切り口をそのままにしておくと、その部分から雑菌が侵入し、腐乱病などに感染する危険性があります。
そのため、剪定後の切り口すべてに薬を塗ってやるのです。

 次に行うのが芝集めです。
剪定後、雪の上に落ちた枝を一本一本集め、焼いていきます。
剪定作業はお父さんが行うのに対し、この仕事はお母さんが行います。
女の人の作業とは言え、広いりんご園を歩き回り、枝を集めては火を付ける作業はなかなかの重労働です。

 こうした作業を、堅雪となる2月の下旬から雪が消える3月の下旬まで、雪焼けで真っ黒になりながら、こつこつとこなしていくのです。

 ゴールド農園では、今日もりんごの樹の剪定作業が行われています。
体力的には大変な日が続きますが、雪を頂いた岩木山の美しい姿が私たちの疲れを癒してくれます。
新しい春に向けて、今年の収穫に向けて、りんご園は再び活気を取り戻しつつあります。












日本一美味しいりんごを作ろう

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